中條高徳|「胸を三度叩いて生きる」——組織に屈しなかった誠実の人

政治家・経済人

「自分の胸を三度叩いて、正しいと思ったことはやる。
組織の力に負けて、口をつぐんでいても事態は改善しない。」

この言葉を残したのは、アサヒビール名誉顧問の 中條高徳(なかじょう たかのり) さん。
バブル崩壊後の混乱期に、アサヒビールを再建へと導いた名経営者です。

ただの「企業人」ではなく、信念と情の人。
その生き方は、いまを生きる私たちにも深く響くものがあります。

この記事では、中條高徳さんの生い立ちと人生の信条、
そして彼が貫いた「正しいと思う道を進む勇気」をたどります。


基本プロフィール

  • 名前:中條 高徳(なかじょう たかのり)
  • 生年月日:1927年(昭和2年)
  • 出身地:長野県
  • 職業:実業家、アサヒビール名誉顧問
  • 出身校:長野県立長野工業学校(現・長野工業高校)
  • 主な功績:アサヒスーパードライの再建、企業文化改革、著作活動
  • 没年:2018年(享年91歳)

生い立ちと幼少期

長野県の山あいに生まれた中條さん。
戦中戦後の混乱期を少年時代に過ごしました。
家は裕福ではなく、働きながら学ぶことが当たり前の時代。

若いころから「言い訳をせずにやり抜く」姿勢が身についたといいます。
学生時代にはスポーツにも熱中し、負けず嫌いな性格で知られていました。

「努力は裏切らない」という価値観を、
この頃に体で覚えたのだと語っています。


活動の転機・挑戦

社会人としての第一歩は、戦後の混乱期。
進駐軍との関係業務などを経て、後にアサヒビールへ入社します。

当時のアサヒは、サントリーやキリンに押され、業績は低迷。
「もうダメだ」と言われていた企業を立て直すため、
中條さんは“常識を壊す改革”に踏み出しました。

その象徴が——
アサヒスーパードライの誕生(1987年)

若者や女性がビール離れを起こす中、
「時代に合った味をつくるべきだ」と社内で提言。
多くの反対を受けながらも、「これが未来の味」と信じて企画を通しました。

発売後、空前のヒット。
アサヒビールは業界最下位から一気にトップへと返り咲きました。

「正しいと思うことは、組織の空気よりも重い。」

この時の信念が、あの有名な“胸を三度叩く言葉”に通じているのです。


苦悩と生き方

改革の裏には、孤独な戦いもありました。
派閥や反対意見、現場との軋轢——。
それでも中條さんは、決して怒鳴らず、静かに信念を通しました。

社員を叱る代わりに、
「おまえはどう思う?」と必ず問い返したそうです。

そこには、“人を育てる”という深い愛情がありました。

晩年、講演で語った印象的な言葉があります。

「正しいと思う道は、時に孤独です。
でも、その孤独に耐えた人だけが、次の時代を作れる。」

まさに彼自身の生き方そのものでした。


晩年と思想

引退後も、多くの企業・自治体で講演を続け、
「心の経営」「誇りある働き方」を訴え続けました。

著書『自分の花を咲かせなさい』では、
「他人の庭をうらやむな。自分の根を信じなさい」と語り、
若者たちに向けて誠実に生きることの尊さを伝えています。


代表作・著書

  • 『自分の花を咲かせなさい』(致知出版社)
     ──「他人の庭をうらやむな。自分の根を信じなさい」というメッセージで知られる代表作。
  • 『心の経営』(致知出版社)
     ──組織の中で“人の心”をどう育てるかを説いた経営哲学の書。
  • 『叱らないで一流に育てる』(講演録)
     ──リーダーとして人を導く姿勢を語った一冊。

中條高徳 名言集

*「自分の胸を三度叩いて、正しいと思ったことはやる。」

組織の中では、波風を立てないほうが楽なこともあります。
でも中條さんは、それを選びませんでした。

「間違っている」と感じたとき、
彼はまず自分の胸を叩き、もう一度問い直したといいます。

――“本当にこれでいいのか?”

自分自身との対話を怠らない、誠実なリーダーの姿勢がこの一言に凝縮されています。


*「組織の力に負けて、口をつぐんでいても事態は改善しない。」

立場が上がるほど、沈黙が“安全”に思えるものです。
けれど中條さんは、沈黙の中にこそ腐敗が生まれると知っていました。

意見を言う勇気。
それは、誰かを傷つけるためではなく、
「会社を、仲間を、よりよくしたい」という愛から生まれる行動です。

誠実な反骨心――その大切さを教えてくれる言葉です。


*「人を責めるより、自分を磨け。」

中條さんは常に“他責”ではなく“自責”で考えました。
「部下が悪い」「上司がわかっていない」と言う前に、
「自分は何ができるか」を探したのです。

これは、どんな立場の人にも通じる生き方。
人間関係に悩んだとき、仕事で壁に当たったとき、
この言葉を思い出すだけで少し心が整うような気がします。


*「他人の庭をうらやむな。自分の根を信じなさい。」

著書『自分の花を咲かせなさい』の中で語られた名言。
誰かの成功をうらやむより、自分の地道な努力を信じること。

派手に咲く花もあれば、ゆっくり咲く花もある。
大切なのは“咲く速さ”ではなく、“どんな根を張るか”。

人生のペースに迷ったとき、
静かに背中を押してくれる言葉です。


*「正しい道は、いつも少し寂しい。」

これは、経営者としての晩年に語った印象的な言葉。
正しいことを貫こうとすれば、仲間が離れることもある。
それでも、間違いには加担しない。

「孤独に耐えられるかどうかが、リーダーの器を決める」と語った彼の言葉は、
誠実に生きようとするすべての人へのメッセージです。


中條高徳さんの言葉は、厳しさの中に優しさがあり、
理屈よりも“生き方そのもの”が伝わってきます。

どんな時代にも通じるのは、
「人として、どうあるか」を自分に問い続ける姿勢。

胸を三度叩く――それは、自分を信じるための小さな儀式なのかもしれません。


まとめ

中條高徳さんの人生は、静かな勇気の連続でした。
派手さはなくとも、芯が通っている。
その姿勢は、今の時代にも深く響きます。

胸を三度叩いて、自分に問う。
「本当に、これが正しいか?」

――その問いを繰り返す生き方こそ、
彼が遺した“人としての道”なのかもしれません。


コメント

タイトルとURLをコピーしました